東京学芸大学附属世田谷小学校

思いゆたかに
考えふかく
ともに生きる子

明治9年(1876 年)、東京府小学師範学校附属小学校として内幸町に開校。150年近い歴史を誇り、日本の近代化とともに大きな教育的役割を果たしてきた学校である。一般の小学校と同じではあるが、教員養成を目的とする東京学芸大学教育学部の附属小学校として、教育理論の実践と学生の教育実習の指導を行うことを使命としている。それゆえ年間100 人以上もの実習生を受け入れている。

沼田晶弘

1975年、東京都生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学の修士を修了。教育関係のイベント企画や、企業向けの講演も精力的に行っている。著書に『変なクラスが世界を変える』(中央公論新社)、『one and only 自分史上最高になる』(東洋館出版社)など多数。

「ダンシング掃除」や「勝手に観光大使」など、独自の指導法で子供の自主性を伸ばしている「ぬまっち」こと沼田晶弘先生。現在では多くの教育関連書籍を出版し、テレビや記事でも多く取り上げられ脚光を浴びている。そんな沼田先生にご自身の活動と、子供と大人の関わり方について語ってもらった。

ボクなりの教育メソッドを用いていることもあり、普段どんな研究をしているのかと尋ねられたりしますが、机の上での研究にそれほど時間を割いているわけではありません。周りの方々が面白い情報をくれるので、その情報を授業や講演会で使えるかなと考えたりはします。家では、隔週1回オンラインサロンを開いたり、オンライン会議はしますが、基本的にあまり仕事はしません。空いている隙間時間に少しずつ進めます。
仕事から帰ったらご飯を作ったり洗濯をしたり、その他育児参加がボクの家での仕事なので、そちらをがんばっています。ご飯は必ず妻と一緒に食べます。ボクの帰りを待っていてくれるんですよ。育児があるから、効率を考えたら時間をずらして食べたほうが良くないかと思うのですが、食事の時間にたくさん話すようにしています。

時間を使い分けて効率的に
時間の使い方としては「上手に使う時間」と「下手に使う時間」を使い分けます。仕事をするオンの時間はしっかりしています。それが「上手に使う時間」。よく言うじゃないですか、定時に帰れるか帰れないかとか、学校の先生の仕事はブラックだとか。ボクはそうは思っていなくて、仕事が終わらないのは工夫が足りないか、能力が足りないかのどちらかだと考えることにしています。絶対に時間内に終わらせられるはずと思ってボクはやっています。その日のスケジュールからどのくらい時間がかかるか予想して、決められた仕事を終わらせられるように割り振る。そのためにも隙間時間は活用しますね。逆にオフのときは「下手に使う時間」。効率を求めなくてもよいのです。

任せることは学習の機会を生む
仕事に対して自分の能力が足りないと感じたときは、人に頼みます。能力のある人に頼む。現在の日本はそれができるのが素晴らしい点です。ボクは日本のアニメは世界一だと思っているんです。ボクが子供の頃はキャプテン翼やドラゴンボールが流行っていたんですけど、あれは結局、翼くんがシュートを打ったら決まる。ドラゴンボールは結局、悟空が一番強いんです。しかし今の時代はワンピースなんですよ。チーム戦で協力しあってやり遂げるのです。だとしたらボクはすべて一人でできなくてもいいのです。たとえば本の出版も、携わるスタッフが優れているから成り立っています。もちろんボクも仕事をしますが、編集者や校正マンなどたくさんのスタッフがいてくれて成り立っていることです。ボクだけではできません。だからこそ、できないことは人に頼ることも大事だと思います。ところで、最近は鬼滅の刃が流行っていました。流行ったからには何か読み取るべき意味やメッセージがあるのではないかなどと考えたりもします。
学校でも、一人で作業を回せないときは子供たちに頼みます。何でもやってくれます。ゴミ捨て、掃除、荷物だってとってきてくれるし、肩も揉んでくれます(笑)。子供たちに頼んでもできないというのは、勝手にこっちが決めつけているだけで、できるレベルには限界があるけれど、子供ができる仕事はなるべく子供に任せようとしています。それによって自分の時間も作れる。子供に何かしてあげることが必ずしも教育ではありません。
家庭でも、たとえば風呂の掃除を任せたいと思ったとします。そうしたらお店に行って、子供専用の風呂掃除用手袋や洗剤を子供に選ばせる。専用というところがポイントです。すると子供は「お風呂掃除は僕の、私の仕事」となるのです。してあげることは簡単なのです。しかし、サービスすることによって、実はその人の学習機会を奪っていることもあるのです。

やる気を引き出す言葉をかける
大人には羞恥心とか社会的体面とか、いろいろなものがまとわりついているのでわかりにくいのですが、それを拭い去ってみると、じつは子供がされてうれしいことは、大人がされてもうれしいことなのです。
人のやる気を出すためにはどうしたら良いか、子供相手にやってみてうまくいくとだいたい大人にも当てはまります。たとえば、ちょっと妙な例ですが、女性を相手に挨拶をする際、100パーセント喜ばれる言葉があります。それは「髪、切った?」です。これを言うと、自分のことを注目してくれていると思うので誰でもうれしい。「切ってないよ〜」などと髪を触ったりしながら喜んでくれます。背筋もすっと伸びる。これは子供も大人も関係なくそうでした。ちなみに男性は80パーセントほどでしたが「その服新しい?」と尋ねると喜びます。人間関係を作る、コミュニケーションを円滑にして、相手の気持ちを上げていくために、かける言葉を探すのは大切なことです。

イヤイヤ期はオレオレ期
子供の「反抗期」というネーミング、ボクはたいへん気に入りません。あんなのは反抗期じゃない。親の価値観が描く円があるとすると、そこから子供が出ただけの話です。親の意見と違うことを主張したら反抗と取られますが、実際には自己主張期なのです。
またイヤイヤ期という言葉もあります。子供が自らの力で判断ができるようになってきた証拠なのに、どうしてイヤイヤ期というのか。じつは「親の都合通りに子供が動かなくなった」というだけの話ではないでしょうか。親が事前準備さえできていればまったく大丈夫なのですよ。だからボクは「イヤイヤ期」を「オレオレ期」に、「反抗期」は「自己主張期」と言い換えたい。子供の主張を全部ききなさいというわけではなく、こちらも主張し、話し合う。主張することを通すのはただのわがまま、理由をきちんと言ってディスカッションをすればいいだけです。理由を言わない、話し合わないと、これは「反抗期」になってしまいます。成長しても自分の考えを主張できないというのは、大人が子供の意見を潰してきているからなのです。マインドさえ変われば、子供との関係性はすべて変わります。

津田塾大学4年 松本麗奈/日本大学4年 辻内海成

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